ONLINE: 010202
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Quality Television
クオリティ テレビジョン


 以下の文章は、坂田健悟が海外テレビ関係のサイトを始めたとき、最初に書いてみたモノです。
 それから2年半年経ったいま、海外テレビや日本のテレビに対する考え方は変わったし、ほんの少し知識がついてきた今見ると、実に恥かしい事実誤認もごまんとあったりするんですが。
 とはいえ、こんな文章を書かせちまった海外テレビに対する驚きと感動は、失いたくないし、やっぱ色んなヒトに知って欲しいと今でも思ってるわけで。プラス、過去の自分の思考の変化を知るべき将来の自分のためにも、こうやって、掲載しておこうかな、と。



 さまざまな文献や口承によると、最後の戦争が終わりテレビが現れてから、私の生まれる少し前まで、日本でも多くのアメリカ製、あるいはイギリス製のテレビ番組を、プライムタイムに多く観ることができたという。その時代に生まれてきた人々は、みずからの子供時代を遠い目をしてこう語る。「サンダーバードは……」「リンチンチンが……」「スマートが靴を耳に当てて……」。海外テレビ隆盛の時代であった。

 それらの作品が、その時代にどのように受け止められていたのか、私に知るすべはない。実際は、たいして質が高いわけでもないナンセンスなコメディという事も多いだろう。しかし、それらは確かに、語られるだけの何かを持っていた。実際、それらの名前は全世界に知れ渡っているのだ。インドでも、南アメリカでも、アフリカでも、テレビのある環境に生まれた人ならば、だれもが知っているのだ。私はニュージーランドで、ジンバブエから来た少年が「ジニー」のテーマ曲を口ずさむのを聞いた。


 高度経済成長とともに、日本国内のテレビ市場も大きく成長した。もはや海外プログラムにたよらずとも、国内でじゅうぶん視聴者を納得させる作品を作ることが可能となった。視聴者も、碧眼金髪ミニスカートで拳銃ぶっ放すネエちゃんより、貧乏こいていかだで町に売られるけなげな黒い髪の少女に親近感を抱くのは当然だった。日本独自のドラマスタイルが完成され、バラエティ番組が生まれた。プライムタイムから海外ドラマは追放され、そして、日本は外の世界を忘れた。テレビの鎖国である。

 一方、テレビ輸出国のアメリカでは、80年代後半から、新しいテレビの流れが始まった。クオリティドラマの登場である。世界でも数少ない「テレビ博士」のひとり、ロバート J. トンプソンによれば、現在のアメリカテレビ界は『第二の黄金時代』であるらしい。第一の黄金時代      「ヒッチコック劇場」などの、50年代、海外テレビ伝説の時代      以来の、超高品質のテレビドラマとコメディが、放送されるようになったのだ。「ヒルストリートブルース」「サーティサムシング」あたりから始まったそれは、映画と同様の質の画面や演技という技術面でのクオリティ、そして高い社会性と感動の同居するシナリオという物語面でのクオリティのふたつをあわせ持ち、俳優の演技からサウンドエフェクトの町の騒音まで、テレビドラマ/コメディのあり方を変えた。

 クオリティドラマの発生とほぼ同時に、シンジケート系の野心的プログラムとケーブル放送による専門チャンネルの登場など、政治や経済を含むテレビの様々な分野・レベルで変化が始まり、また業界内部の人間      俳優・ライター・監督など      の間でも機会が増えることで競争が激化し、それらが互いに影響しあい、究極的には『3大ネットワーク』が『6大ネットワーク』になるという、テレビというメディアの大拡張が行われた。拡張は全世界にも及び、アメリカでヒットしたドラマ(或いはコメディ)はどれも、世界40カ国以上で放送されるのが当たり前というようになった。英語圏の国々はもちろんの事、フランス、ドイツ、フィンランド、スロベニア、マレーシア、ウルグアイ、レバノン、ボツワナ、番組の内容がその国の政治・社会風土に合いさえすれば、世界中どこにいっても、だれもがアメリカの超高品位番組を見られるようになったのである。ただ一国、日本を除いては……。


 ニュージーランドで私は見た。アメリカ製テレビプログラムという、エンタテインメントの沃野が目の前に広がっているのを。そのあまりに広大な世界が、世界中で1億2千万人の日本人にだけ、知られずにあるのを。

 90年代の日本で、いったい何人が「L.A.ロー」や「ピケットフェンス」を観ていただろうか。どちらもエミー賞を複数受賞したテレビ史上に残る傑作である。「サインフェルド」や「MAD ABOUT YOU」が日本で放送されないのは何故だ?(後注:前者は後に1部放送されました)どちらも「奥様は魔女」「アイ ラブ ルーシー」と同じように、あるいはそれ以上に語られるべきものを持った作品なのに!

 「Mr.ビーン」が日本でもブームになった時の事を思い出していただきたい。その宣伝コピーに「世界中80カ国以上で人気を博し」といったような文章が含まれていただろう。それはつまり、「既に世界中の80カ国で放映され、やっと日本に入ってきた」、という事だ。「Xファイル」にしても、それが数年前に最悪な加工を施された上で日本の地上波放送にあらわれたとき、隣の韓国や台湾ではとうに放送が始まっていたはずだ。日本で今、いったい何人が、「NYPDブルー」を観ていたか!?

 もったいない。これだけ面白く、高い質の感動を与えてくれるドラマ・コメディが、世界のあらゆるところで流れていながら、それを知らずに生きていくのはあまりにももったいない

 僕が海外にいるあいだに、少しでも、海外のテレビプログラムを日本に伝えることが出来たらと思う。

Originally written: '98.09.13.




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